オンライン特化型の声優スクール・メイクリでは、 イケボを目指す中で「倍音」という言葉を見聞きしたが 「何のことか分からない」という相談を日常的に受けています。
倍音はイケボを語る上で避けられない要素ですが、 感覚的な言葉で説明されることが多く、 具体的に何を指しているのかが伝わりにくい概念です。 「なんとなく大事らしい」という前提のまま進んでいると、 倍音という言葉だけが浮いたまま練習が進むことがあります。
こうした前提のズレがあるままでは、 倍音を意識しようとしても何をすればいいかが分からない状態が続きます。
このページでは、 倍音とは何か、なぜイケボに関係するのかを見ていきます。
倍音とは声に含まれる複数の音の重なりのこと
声を出すとき、 聴こえているのは一つの音だけではありません。
声には、 基音と呼ばれるメインの音の他に、 その整数倍の周波数を持つ複数の音が同時に含まれています。
これを倍音と呼びます。
たとえば100Hzの基音が鳴っているとき、 200Hz・300Hz・400Hz……といった音が同時に鳴っています。
これらの音は個別には聴こえにくく、 まとまって「声の質感」「声の色」として認識されます。
倍音の鳴り方によって、 同じ音程・同じ音量でも声の印象が大きく変わります。
倍音が整っている声と整っていない声の違い
倍音が自然に整っている声には、 いくつか共通した特徴があります。
耳に引っかかりにくく、 自然に前に届いてくるように聞こえます。 長時間聴いていても疲れにくく、 聴き手に負担を与えません。 マイクを通しても印象が崩れにくく、 録音環境が変わっても安定して届きます。
一方、倍音がうまく鳴っていない声は、 こもって聴こえたり、 必要以上にうるさく聴こえたり、 マイクを通すと一気に弱くなったりします。
同じ低さの声でも、 倍音が整っているかどうかで 「カッコいい声」として聴こえるかどうかが変わります。
イケボと呼ばれる声に共通しているのは、 この倍音の鳴り方が安定しているという点です。
なぜ倍音は声によって異なるのか
倍音の鳴り方は、 声帯の振動の仕方と、 声道(口・喉・鼻腔など)の形状・状態によって決まります。
声帯が安定して振動しているとき、 倍音は自然に整った状態で鳴ります。
逆に、喉に余計な力が入っていたり、 声帯の振動が不安定だったりすると、 倍音の鳴り方が乱れます。
また、 喉の開き具合や息の量によっても 倍音の鳴り方は変わります。
喉が適切に開いていて、 息の量と声帯の振動がバランスよく整っているとき、 倍音は綺麗に重なりやすくなります。
つまり倍音は、 意図的に「出す」ものではなく、 発声の状態が整った結果として自然に鳴るものです。
倍音を意識しようとしても感覚でつかみにくい理由
倍音が大事だと知っても、 「倍音を意識して声を出す」という練習が うまくいかないことが多くあります。
その理由は、 倍音は出そうとして直接コントロールできるものではないからです。
倍音の鳴り方は、 喉の状態・息の量・声帯の振動という 別の要素の結果として決まります。
「倍音を出そう」と意識しても、 そのために何をどう変えればいいかが分からなければ、 感覚だけが空回りすることになります。
倍音を整えるためには、 倍音そのものを直接操作しようとするのではなく、 発声の土台となる要素を一つずつ確認していく必要があります。
倍音と声の高さは別の問題
倍音について調べると、 「倍音が多い声は高い声」というイメージを持つ人がいます。
ですが倍音の豊かさと声の高さは、 別の軸の話です。
低い声でも倍音が整っていれば、 耳に心地よく響く声になります。
高い声でも倍音が乱れていれば、 刺さるような不快な声になることがあります。
イケボのイメージとして低音が連想されやすいですが、 実際にはどの音域であっても 倍音が整っている声がイケボとして機能します。
声の高さと倍音の質は、 切り離して考える必要があります。
録音すると倍音のズレが分かりやすくなる理由
倍音の状態は、 生声で聴いているときよりも 録音して聴き返したときに違いが出やすくなります。
自分の声を内側から聴いているとき、 骨伝導によって低音域が強調されて聴こえるため、 倍音の状態が実際よりも良く感じられることがあります。
録音を通して外側から聴くと、 こもり・弱さ・刺さりといった倍音の乱れが より明確に出てきます。
ただし、 録音を聴いて倍音の状態を正確に判断するためには、 何をどう評価するかという基準が必要です。
基準なしに録音を聴いても、 「なんか変な気がする」という感想で終わりやすくなります。
倍音が鳴らない状態でよく起きていること
倍音が整っていない声の状態として、 よく見られるパターンがいくつかあります。
喉に余計な力が入っている場合、 声帯の振動が制限されて倍音が乱れやすくなります。 声がこもりやすくなり、 マイクを通すと弱さが際立つことが多くなります。
息の量が多すぎる場合、 声帯がしっかり振動できず、 息っぽい声になりやすくなります。 響きが薄くなり、 軽い印象の声になります。
息の量が少なすぎる場合、 声が硬くなり、 圧迫感や緊張感が出やすくなります。 長時間話すと疲れやすい声になります。
こうした状態では、 どれだけ低く声を出しても 倍音が整った響きにはなりにくくなります。
倍音はイケボの結果であって目標ではない
ここまで見てきたように、 倍音はイケボを構成する重要な要素ですが、 倍音そのものを直接コントロールすることはできません。
倍音が整った状態は、 発声の土台が整った結果として現れるものです。
喉の状態・息の量・声帯の振動という要素が それぞれ適切な状態になっているとき、 倍音は自然に整います。
そのため、 「倍音を出そう」と意識することよりも、 発声の各要素が今どういう状態にあるかを確認することが先になります。
倍音を含めたイケボの成立条件と、 声の仕組みの全体については、 声の響きとイケボの関係|倍音が整う発声とはで詳しく扱っています。

