オンライン特化型の声優スクール『メイクリ』では、女声に関する相談を日常的に受けています。その中には、普段は女声が通じているのに、笑った瞬間だけ声が戻ってしまうという経験をしている男の娘の方がいます。
男の娘としてのVR活動では、アバターや衣装は整えられます。立ち振る舞いや世界観も、工夫すれば形になります。
ですが、最後に残るのは「声」です。話した瞬間に生まれる違和感は、誤魔化しがききません。
高くしているのに男声に聞こえる。短い一言は成立しても、笑った瞬間に戻る。録音すると、自分でも「何か違う」と分かる。
こうした違和感は、努力不足の問題ではありません。多くの場合、女声を「高さ」や「雰囲気」の話として捉えたまま、練習を続けてしまっているだけです。
本記事では、男の娘として女声を使う中で起きやすい「笑い声での崩れ」について、特定の方法や練習論に寄らず、声の使われ方という視点から掘り下げていきます。
笑いは意識的にコントロールできない発声である
人が笑うとき、声は意識的に作られていません。笑いは反射に近い動作です。面白いと感じた瞬間、脳は笑いの信号を送り、声帯や呼吸器が反応します。
この過程に、「今から女声で笑う」という意図が入り込む余地はほとんどありません。
発話の場合、言葉を選び、声を作り、出す、という順序があります。その間に意識が介入できます。笑いにはその順序がありません。感情が先にあり、声は後からついてくる。だから、笑いの瞬間は制御が外れます。
「笑い声だけ崩れる」という経験の正体
VRChatで活動している男の娘の方から寄せられる相談の中に、「普段の会話は通じているのに、笑った瞬間だけ相手の反応が変わる」というものがあります。
これは、笑い声が制御外の発声であるという構造から来ています。
普段の発話は意識的に作れます。しかし笑い声は、地声が反射的に出やすい発声です。意識して作った女声の上に、地声の笑い声が乗る。その瞬間、聞いている側には違和感として届きます。
笑いの種類によって崩れ方が変わる
笑いにも種類があります。
小さく「ふふ」と笑う場合と、声を上げて「あははは」と笑う場合では、発声への負荷が違います。後者は呼吸が大きく動き、声帯への関与が増えます。その分、制御が外れやすくなります。
また、笑いが長く続く場合も同様です。一瞬の笑いより、笑いが続く場面の方が崩れやすい。これは、笑いが長くなるほど制御の外にいる時間が長くなるためです。
テンポよく会話が進んでいる場面でも、笑いが連続することがあります。そういった場面では、笑いのたびに崩れが発生する可能性があります。
「笑えない」状態は根本的な解決ではない
笑い声で崩れることを避けるために、笑いを抑えるという対処をしている方がいます。笑わなければ崩れない、という発想です。
ただ、VRChatでの活動において、笑いを完全に抑えることは現実的ではありません。楽しい場面で笑いが出ることは自然な反応であり、それを止めることで活動の質が変わります。
また、笑いを抑えること自体が、声への意識を増やします。笑いに注意を向けながら会話する状態は、会話そのものへの集中を妨げます。
崩れる問題を、笑いを抑えることで回避しようとするのであれば、それは声の問題が解決しているのではなく、回避しているだけです。
笑い声が成立している状態とはどういうことか
笑い声を含めて女声が成立している状態とは、笑いの瞬間にも声の状態が変わらない状態です。
それは、笑い声が制御外であるにもかかわらず、女声として知覚される声の状態が体に定着している場合にのみ起きます。意識的に作っている段階では、笑い声は制御の外に出やすくなります。
どうすればその状態に至るか、という問いについては、本記事では扱いません。ただ、「笑い声だけが崩れる」という状態が繰り返されているなら、現在の練習の方向性が笑い声まで対応できているかを確認する必要があります。
男の娘として女声を学ぶことについて関心のある方は、男の娘として成立するための定義と条件をご覧ください。
「出せる瞬間がある」ではなく、「何度でも再現できる」まで行く。
笑った瞬間も、感情が動いた瞬間も、崩れない。そこから初めて、男の娘は成立します。
「可愛い」に近道無し。


