ボイトレスクールの声優コースに通えば、声優になれるのか。
先に答えます。なりません。ただしこれは、コースの質が低いという意味ではありません。コースが埋める範囲と、仕事に必要な範囲が違うという意味です。
当校の運営者は、シアーミュージックで声優コースの講師をしていました。教える側から見た距離を書きます。
45分という枠が決めていること
声優コースは1コマ45分のマンツーマンです。45分を1人で使えることには価値があります。集団授業のように順番を待ちません。
そのうえで、45分に入るものは決まっています。
| 45分の使われ方 | 時間 |
|---|---|
| 前回からの状況確認 | 担当が変わっていれば、ここが伸びます |
| 発声・滑舌の確認 | 基礎の反復 |
| 台本を読む | 実際に声を出す時間 |
| 指摘と直し | 1回か2回の往復 |
| 次回の課題 | ここが抜けると、レッスンは感想会で終わります |
台詞を1本、2回読んで直すと、それだけで20分前後を使います。45分で扱える課題は、実質1つか2つです。
これは講師の能力の問題ではありません。枠の問題です。時間が短いほど、基礎の確認で終わりやすくなります。
声優の仕事に必要なものを、分けて並べます
| 必要なもの | ボイトレの声優コースで埋まるか |
|---|---|
| 発声・滑舌・呼吸の基礎 | 埋まります。ここが本体です |
| 台本を読む技術 | 埋まります |
| マイク前の距離・息の量・ノイズ | 対面では扱いにくい。講師の耳に届く音が、収録の音と違います |
| 短い指示で音を変える力 | 往復の回数が要ります。45分では回数が足りません |
| 同じ品質を繰り返す力 | テイクを重ねる時間が要ります |
| 受ける先(オーディション・事務所) | 埋まりません。スクールの外にあります |
上の3つは埋まります。下の3つが残ります。そして仕事の発生に直接効くのは、下の3つです。
現場で評価されるのは、基礎の完成度ではありません
当校の運営者は、大手の声優学校へ通ってから現場に出ています。そこで評価されたものを書きます。
短い指示に応じて音を変え、同じ品質を繰り返す力。評価されたのはそれだけでした。
収録の現場では時間が限られています。「もっと感情を込めて」という長い説明は飛んできません。半歩下がって、語尾を置いて、頭の息を減らして。その指示を聞いて2秒後に音が変わるかが見られます。
そして次のテイクでも同じように出せるか。1回だけ良いものが出ても、繰り返せなければ使えません。
この力は、往復の回数で育ちます。45分で1〜2往復のペースだと、必要な回数に届くまで年単位かかります。基礎が上がっても、ここは別に積む必要があります。
マイクを通した音を、対面では聞けません
これは対面レッスンの構造的な限界です。
声優の仕事は、マイクに入ったあとの音で評価されます。オーディションの提出音源も、収録の本番もそうです。生の声を直接聞いて判断される場面は、ほとんどありません。
- 距離:近づけば低音が増え、離せば芯が消える
- 息:生では気にならない息が、収録では雑音として乗る
- 音量差:叫びと囁きの差が大きすぎると、どちらかが使えない
教室で数メートル離れて聞いている講師には、この3つが届きません。指摘しようにも判断材料が無い。だから対面のレッスンは、生の声の完成度に寄ります。
録音機材を持ち込んで確認する運用なら別です。体験レッスンで「録音して聞かせてもらえますか」と聞いてください。ここが通るかどうかで、扱っている領域が分かります。
「受ける先」はスクールの外にあります
いちばん大きい距離はここです。
ボイトレスクールは、声を良くする事業です。オーディションを配る事業ではありません。所属先を紹介する仕組みも、原則としてありません。
これは欠点ではなく、事業の範囲です。ただし受講者側が「通っていれば道が開ける」と読むと、そこで時間が止まります。通った年数は、受ける先を1つも生みません。
だから在籍中に、自分で受ける先を並行して探す必要があります。公募オーディション、養成所の入所試験、事務所の一般応募。スクールに通っていることは、その申し込みを1件も代行しません。
では、声優コースは無駄なのか
無駄ではありません。使い方を間違えると無駄になります。
| 効く使い方 | 時間が消える使い方 |
|---|---|
| 基礎の穴を潰す目的で、期間を決めて通う | 期限を決めずに、通うこと自体を目的にする |
| 受ける先を並行して探す | 「準備ができてから受ける」と先送りする |
| 毎回の課題を自分で記録する | 引き継ぎ記録に任せる |
| 録音を自分で残して前後を比べる | 講師の褒め言葉で進捗を測る |
| マイク前の訓練を別に確保する | 生の声だけを磨き続ける |
右側は、どのスクールでも起きます。スクールの側から止めてもらえません。通い続けてくれる受講者は、事業として困らないからです。
1か所で全部を揃える必要はありません
基礎はボイトレで、マイク前は別で、受ける先は自分で。分けて調達して構いません。
ひとつのスクールに全部を求めると、足りない部分を「まだ準備が足りないから」と自分の努力不足に読み替えることになります。足りないのは努力ではなく、範囲です。
いま通っている場所で埋まっているものと、埋まっていないものを、上の表で分けてください。埋まっていない側に、いくら時間を足しても埋まりません。
通う期間は、最初に決めてください
「上手くなるまで」は期間ではありません。終わりが定義されていないので、いつまでも終わりません。
決め方は2つあります。
| 決め方 | やること |
|---|---|
| 達成条件で決める | 「この台本を、指示1回で直せる状態」のように、音で判定できる条件を1つ置く |
| 期限で決める | 受ける先の締切から逆算する。公募オーディションの応募期限が最も使いやすい |
どちらも、比較用の台本を1本決めて毎月録っておけば判定できます。3か月前の音と今日の音を並べる。変化が聞き取れなければ、通い方か通う場所を変える判断ができます。
この判定を講師に任せないでください。継続してもらうことは、スクールの収益そのものです。止めどきを教える動機が、構造として存在しません。
こちらが埋めない範囲も書きます
同じ基準を当てます。メイクリも全部は埋めません。
埋めるのは、マイク前を前提にしたアフレコ形式の訓練です。1回90分、完全マンツーマン、担当は原則固定。オンラインなので講師は常にマイクを通った音を聞いています。
埋めないものはこれです。
- 歌の指導は行いません
- 集団授業と舞台の経験は提供しません(掛け合いは希望制であります)
- オーディションの合否も、事務所への所属も決められません。提携先への推薦制度はありますが、判断するのは事務所です。他社の受験も妨げません
- レッスンの外の練習には関与できません
渡せるのは、受けるときの状態だけです。結果は渡せません。そこを混ぜずに、いまどの範囲が足りていないかで選んでください。
担当が変わったときに前回の続きから始まるかどうかは、講師を選べるスクールで、前回の続きが消える理由|引き継ぎを書いた側の記録で書いています。


