声優スクールや音楽教室では、講師を社員ではなく業務委託として採用することがあります。通常レッスンの報酬は書かれていても、無料体験や準備や報告の扱いが曖昧な契約もあります。
業務委託だから無報酬でも仕方がないという説明は通りません。発注された仕事なら、業務内容と報酬額と支払日を先に確認する必要があります。
シアー株式会社の事案では、公正取引委員会がフリーランス講師1,674名へ無償で体験レッスンを行わせた行為を法律違反と認定しました。会社のために役務を無償で提供させ、講師の利益を不当に害したと判断されています。
この認定が出たため、シアーの対象行為について「通知だけでは違反と断定できない」と書く段階は終わりました。一方で別の声優スクールや別の仕事まで、報酬が低いという理由だけで同じ違反だと決めることはできません。
必要なのは契約名ではなく実際の発注内容です。この記事では声優講師が無報酬の仕事を頼まれた時に、何を確認してどの資料を残すかを示します。
シアーの無償体験は法律違反と認定された
公正取引委員会はシアー株式会社について、フリーランス講師1,674名へ無償で体験レッスンを行わせた事実を公表しました。参照された条文はフリーランス法第5条第2項第1号です。
この条文は不当な経済上の利益の提供要請を禁じています。発注側のために金銭や役務を提供させ、フリーランスの利益を不当に害する行為が対象です。
公取委は対象講師へ対価に相当する額を速やかに支払うことも求めました。これは匿名の口コミや元講師の感想ではなく、行政機関が調査後に示した認定です。
声優講師が自分の契約を確認する時に、この認定から分かるのは次の点です。
- 受講者が無料でも講師の仕事は別に扱われる:無料体験という名称だけで講師報酬は消えません
- 会社の販売活動も役務になり得る:入会前の体験でも発注された指導なら仕事です
- 同意があっても終わらない:第5条の禁止行為は合意があっても違反になることがあります
- 少額でも対象になり得る:1件の金額ではなく行為の内容から判断されます
無償だった事実だけを見て怒るのではなく、誰のための仕事だったかを確かめます。会社が日時と担当を決めて指導を求めたなら、自主的な無料相談とは違います。
フリーランス法の対象になる講師
フリーランス法で保護される中心は、従業員を使用せずに業務を受ける個人事業者です。代表者以外の役員や従業員がいない法人も対象になり得ます。
声優講師という職種名だけで決まるわけではありません。個人でレッスン業務を受けており、発注側との関係が法律の条件を満たすかを見ます。
発注側の義務も一律ではありません。取引条件の明示は広い発注者へ求められますが、報酬支払いと第5条の禁止行為には発注側が従業員を使用しているなどの条件があります。
自分がフリーランスと呼ばれているだけでは足りません。次の項目を契約前に確認してください。
| 確認項目 | 見る内容 |
|---|---|
| 契約相手 | 会社名と発注元の部署 |
| 講師側 | 個人か法人かと従業員の有無 |
| 発注側 | 従業員を使用する事業者か |
| 業務 | レッスンや準備や報告の範囲 |
| 期間 | 契約の開始日と終了日 |
判断に迷う時は契約書だけで結論を出しません。発注画面や勤務の実態も含めて公的窓口へ伝えます。
業務委託という名前だけで雇用は否定されない
契約書へ業務委託と書かれていても、実態が労働者なら労働関係法令が問題になります。厚生労働省も契約の名称ではなく、働き方の実態全体から判断すると案内しています。
声優講師では会社が日時や校舎を決め、細かな指示を出すことがあります。それだけで直ちに労働者になるわけではありませんが、判断材料の1つになります。
確認される事情には次のようなものがあります。
- 仕事を断る自由:担当依頼を拒否できるか
- 指示の強さ:進め方や教材を細かく決められるか
- 時間と場所:会社が勤務時間と校舎を拘束するか
- 代わりの講師:本人以外へ交代できるか
- 報酬の性質:仕事の完成より時間へ対価が払われるか
- 事業者性:自分で費用と危険を負担しているか
どれか1つだけで決まる話ではありません。業務委託のつもりで契約していても、実態に疑問があるなら労働基準監督署の相談窓口も候補になります。
フリーランス法と労働基準法は同じ保護ではありません。先に自分がどちらの立場に近いかを確認すると、相談先を選びやすくなります。
発注時に書面か電子データで示される項目
フリーランスへ業務を委託した発注者は、取引条件を直ちに書面か電子データで示す必要があります。電子メールやチャットや管理画面でも明示できますが、口頭だけでは足りません。
声優講師の仕事なら、次の内容が分かる状態にします。
| 明示される内容 | 声優講師での例 |
|---|---|
| 当事者名 | スクール名と講師名 |
| 発注日 | 体験枠を依頼した日 |
| 業務内容 | 発声指導や台本指導や説明 |
| 実施日 | レッスンを行う日時 |
| 実施場所 | 校舎名かオンライン会議室 |
| 報酬 | 1枠の金額か計算方法 |
| 支払日 | 入金日を特定できる表示 |
検査を行う仕事なら検査が終わる日も確認します。振込以外の方法で支払う時は、その方法に関する情報も必要です。
基本契約書があるから個別発注は不要とは限りません。基本契約で共通条件を示し、個々のレッスン画面で日時や内容との関係が分かる形にする必要があります。
報酬額を発注時に決められない正当な理由があるなら、決められない理由と決まる予定日を示します。金額が決まった後は直ちに追加の明示が必要です。
「規定どおりに支払います」だけでは金額を判断できません。「翌月中に支払います」だけでは支払日を特定できません。
講師が担当を受ける時点で、自分が何を行い何円受け取るかを確かめられることが必要です。終わった後に初めて単価を知る運用では、条件を見て断る機会がありません。
支払日は役務を受けた日から原則60日以内
発注側は役務を受けた日から原則60日以内で、できる限り短い期間に支払日を決める必要があります。決めた支払日は守らなければなりません。
レッスン業務では個々の役務を提供した日が基準になります。複数日に続く1つの仕事なら、一連の役務が終わった日を基準にする扱いもあります。
60日以内なら好きな時に払ってよいという意味ではありません。具体的な支払日を先に示し、その日までに支払う義務です。
公取委の案内では支払日を定めなかった時、役務を受けた日が支払日として扱われます。60日を超える日を決めた時は、60日を経過する日が支払日として扱われます。
月末締めと翌月末払いのような運用も認められます。ただし個々の役務から60日を超えない設定が必要です。
請求書を出さなかったから無期限に払わなくてよいともなりません。請求の手順と法定の支払義務は分けて考えます。
1か月以上の委託で禁止される7つの行為
発注側がフリーランスへ1か月以上の業務を委託する時は、第5条の7つの禁止行為を確認します。フリーランスが了解していても、発注側に違反の意識がなくても対象になり得ます。
| 禁止行為 | 声優講師で考えられる例 |
|---|---|
| 受領拒否 | 会社都合で担当済みの仕事を認めない |
| 報酬減額 | 講師に責任がないのに単価を下げる |
| 返品 | 完了した成果を一方的に戻す |
| 買いたたき | 通常より著しく低い額を不当に決める |
| 購入利用強制 | 指定サービスを正当な理由なく買わせる |
| 利益提供要請 | 無償の役務や金銭を不当に求める |
| 変更ややり直し | 講師に責任がないのに無償で追加させる |
レッスンでは返品が想像しにくくても、残りの項目は起こり得ます。無料体験や長い報告や無償研修が、どの条件で頼まれたかを確認してください。
シアーの事案で使われたのは買いたたきではありません。不当な経済上の利益の提供要請として、無償の体験レッスンを行わせた行為が認定されました。
報酬が0円なら常に同じ条文になるわけではありません。委託期間と発注内容と会社の利益と講師への不利益を見たうえで判断されます。
無料体験と無償の自主活動を分ける
講師が自分の判断で無料相談会を開くことはあります。相手と時間を選び、宣伝費として本人が負担するなら自主的な活動です。
会社が受講希望者を集め、日時と場所と担当を決める体験レッスンは話が違います。会社の入会者を増やすために行うなら、会社の事業へ役務を提供しています。
次の項目が多いほど、講師個人の善意ではなく会社から発注された仕事と考える材料になります。
- 予約:会社が受講希望者を集めた
- 予定:会社側が日時を決めた
- 場所:指定校舎か指定システムで行う
- 内容:体験の進め方が決められている
- 報告:終了後の入力を求められる
- 辞退:担当を断る方法が示されていない
無料という表示は受講者への価格です。講師が会社へ提供する役務まで自動的に無料になるわけではありません。
法律の確認では発注された役務だったかを示す記録を残してください。
低い報酬と無報酬を同じにしない
報酬が低いと感じても、直ちに買いたたきと認定されるわけではありません。同種の仕事へ通常支払われる対価や必要経費や業務内容を比べる必要があります。
無報酬も同じです。純粋な自主活動なら業務委託に当たらないことがありますが、会社のために発注された仕事なら別の判断になります。
声優講師が単価を比べる時は、表示されたレッスン時間だけを見ないでください。次の作業も依頼内容へ含まれるかを確認します。
- 準備:教材や台本を選ぶ時間
- 待機:開始時刻まで予定を空ける時間
- 実施:受講者へ指導する時間
- 報告:管理画面へ内容を入力する時間
- 連絡:欠席や変更へ対応する時間
- 移動:指定校舎へ向かう負担
1枠の単価が同じでも、前後の作業が長ければ実際の負担は変わります。会社がどこまでを報酬へ含めるかを先に聞く必要があります。
担当を断れない時に残す記録
会社が管理画面へ予定を入れる方式では、講師が自分で応募したのか会社から割り当てられたのかが分かりにくくなります。担当を断れないと感じた時は、感覚だけでなく画面と連絡を残してください。
保存したい内容は次の通りです。
| 保存するもの | 確認できる事実 |
|---|---|
| 発注画面 | 日時と業務内容と単価 |
| 通知メール | 誰が担当を入れたか |
| 変更履歴 | 後から条件が変わったか |
| 辞退の連絡 | 断る方法と会社の返答 |
| 実施記録 | 実際に仕事を行った日 |
| 支払明細 | 報酬へ含まれた枠 |
管理画面は退職後に見られなくなることがあります。自分の担当分として適法に閲覧できる範囲を、早めに保存してください。
受講者の氏名や連絡先や録音は持ち出しません。相談に必要なのは講師自身の契約と発注と支払いを示す部分です。
画面を撮る時は日時が分かる形にします。後から条件が変わった時に、どの時点の表示だったかを説明できるからです。
契約前に聞くべき10項目
採用された後に条件を初めて知ると、断る心理的な負担が大きくなります。契約書へ署名する前に、通常枠と体験枠を分けて質問してください。
- 通常レッスン1枠の報酬はいくらか
- 体験レッスンにも報酬が出るか
- 入会しなかった時も同額か
- 準備と報告は報酬へ含まれるか
- 受講者が欠席した時はいくらか
- 交通費や教材費は誰が負担するか
- 支払日は何日か
- 体験枠を断る方法はあるか
- 会社が予定を入れる前に確認があるか
- 契約終了と更新拒否の条件は何か
回答は口頭だけで終わらせません。契約書や電子メールや管理画面で確認できる形にします。
「入会後に説明します」と言われた項目は、契約前に決められない理由を聞いてください。報酬と支払日が分からないまま署名する必要はありません。
条件を聞く講師は熱意がないという説明にも従う必要はありません。仕事を続けるための対価を確認する行為と、受講者へ丁寧に教える姿勢は両立します。
会社へ確認する文面
未払いに気づいた時は、最初から違法だと断定する文面を送らない方が事実を得やすくなります。担当日時と確認したい項目を分けて書きます。
〇月〇日に担当したレッスンについて確認します。管理画面の明細では報酬を確認できませんでした。
次の3点を文書でご回答ください。
- この枠の報酬額または計算方法
- 適用される契約条項
- 支払日を特定できる日付
追加の作業が報酬へ含まれる場合は、対象となる業務もお知らせください。
電話で回答を受けた時は、話した日時と担当者名を記録します。その後に電子メールで認識した内容を送り、違いがあれば知らせてほしいと伝えます。
怒りを長く書くと回答すべき項目がぼやけます。最初は報酬額と発注内容と支払日を確定してください。
返答がない時は回答期限を示して再送します。連日の連絡で追い詰めるのではなく、送信記録が残る方法を選びます。
相談前に用意する資料
法的な相談では印象より時系列が役立ちます。元講師として通知と入金を確認できた時も、記憶ではなく残った資料から事実を切り分けられました。
相談前には次を用意してください。
- 基本契約書:契約形態と共通の報酬条件
- 個別発注:レッスン日時と担当依頼
- 単価表:通常枠と体験枠の違い
- 管理画面:担当件数と表示された報酬
- 業務連絡:割り当てや辞退への返答
- 支払明細:会社が計算した金額
- 銀行記録:実際の入金日と金額
- 自分のメモ:準備と実施と報告に使った時間
資料がない部分は推測で埋めません。「口頭で聞いたが記録はない」と書けば、確認済みの事実と記憶を分けられます。
複数の講師から話を聞いても、本人の許可なく名前や契約書を公開しないでください。行政や弁護士へ必要な資料を出すことと、SNSへ拡散することは別です。
相談先は困っている内容で選ぶ
取引条件の明示や報酬支払いや第5条の禁止行為は、公正取引委員会か中小企業庁への申出を検討します。公取委はフリーランス法の違反被疑事実を受け付ける窓口を案内しています。
契約上の請求や個別の交渉を相談したい時は、フリーランス向け無料法律相談窓口を利用できます。厚生労働省はフリーランスや個人事業主が弁護士へ無料相談できる窓口として案内しています。
業務委託と書かれていても実態が労働者に近い時は、労働基準監督署の相談窓口が候補です。契約名だけで窓口を決めず、勤務の実態を伝えてください。
| 困っている内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 発注条件と支払い | 公正取引委員会か中小企業庁 |
| 契約上の交渉 | フリーランス向け無料法律相談窓口 |
| 労働者性の疑い | 労働基準監督署 |
| ハラスメント | 都道府県労働局の担当窓口 |
最初から正しい窓口を完璧に選ぶ必要はありません。契約書と発注記録を見せ、別の担当なら案内してもらいます。
行政への申出を理由とする報復は禁止されている
フリーランス法では、行政機関へ申出をしたことを理由とする不利益な扱いを禁じています。取引数を減らすことや取引を止めることなどが対象です。
ただし申出後に担当が減っただけで、直ちに報復と確定するわけではありません。申出前後の担当数と会社の説明を残してください。
不安が強い時は会社へ伝える前に相談窓口へ進め方を聞けます。記録を残さずに耐えるより、日付と発注内容を自分用に残す方が後の確認に役立ちます。
守秘義務があるから行政へ何も相談できないと決めつけないでください。一方で受講者の個人情報まで無関係な人へ見せることは避けます。
後払いがあっても確認は終わらない
未払いだった金額が後から入れば、金銭上の不利益は回復します。しかし発注時に条件を示したかという問題は残ります。
支払日を守ったかも別に確認します。役務を提供してから長く経過しているなら、入金された事実だけで当時の扱いまで適切だったとは決まりません。
反対に後払いがあったから、すべての事案で法律違反だったとも決められません。適用対象と委託期間と発注内容を確認する必要があります。
シアーの対象行為については公取委が法律違反と認定しています。別の会社や別の仕事は、同じ確認を経ずに企業名だけで断定しないでください。
制度を見直す通知と支払明細は捨てずに残します。会社が何を対象として払ったのかを後から確認できる資料になるからです。
声優講師が無報酬を求められた時の判断
声優講師の業務委託は、会社員ではないという理由で保護がなくなる契約ではありません。発注された仕事なら条件を直ちに示し、決めた支払日までに報酬を払う必要があります。
1か月以上の委託では7つの禁止行為も確認します。会社のために無償の役務を求めて講師の利益を不当に害すれば、不当な経済上の利益の提供要請として問題になります。
無報酬と聞いた時は感情だけで結論を出さず、発注者と日時と業務内容と辞退方法を確認してください。管理画面と連絡と支払記録を残せば、公的窓口が事実を追いやすくなります。
契約書に業務委託と書かれていても、働き方が労働者に近い時は別の保護が検討されます。自分だけで条文を決めず、資料を持って相談先へ確認してください。
シアーミュージックで認定された法律違反と元講師への遡及払いは、シアーミュージックの体験レッスン無償労働|発覚した法律違反と元講師への遡及払いページで詳しく解説しています。


